Cinema

(1963年/アメリカ)

映画とは関係ありませんが、毎朝歩く道中に200mくらいのまっすぐな遊歩道があって、ひょいっとその道に入ると前から大量のカラスを引き連れた小汚いおっさんが自転車でこちらに向かってくることが時々あります。恐らく自転車の後ろカゴにはカラスのえさが入っていて、どこかの広場かなんかにカラス達を引き連れてのブレックファーストなんでしょうけど、理由はどうあれ道を歩いていて前からカラスの大群がこちらを目がけて迫ってくる様はまさにヒッチコックの「鳥」を彷彿とさせる恐怖感があります。

とはいうものの、実は「鳥」を見たことがなかったんですね。「多分そうだろう」というイメージだけで。それではいかん、ということで今回は「鳥」。

こじゃれたラブコメディタッチで始まるこの映画ですが、ヒロインが一羽のカモメに襲われるのを皮切りに鳥たちの襲撃がエスカレートしていきます。台風前のおやじの奮闘のようにドアや窓に板を張り付けて鳥の襲撃に備え、じっと待つ静寂からだんだんと鳥の鳴き声や羽音が大きくなっていくあたりの恐怖感なんかは相当なものです。

何故鳥たちが襲ってくるのかという理由が分からない、というのも良いですね。原作では「厳寒によるエサの激減」らしいんですがこれではちょっと身も蓋もない。ラストシーンもとても印象的でした。

本筋には関係ないですが、前に見た「裏窓」といい、この「鳥」といい、ヒッチコックのヒロインへの「えこひいき」は相当なものです。ヒロインがアップになるシーンは必ず画面がロマンチックな「ぼかし」になるんですね。

食堂のおばさんとの会話なんか露骨です。ヒロインが話す(ぼかし)、おばさん(通常画面)、またヒロインアップ(ぼかしでうっとり)、おばさん(現実そのまま)・・・そのうちおばさんがブチ切れて「なんであんたばっかりがぼかしなのよ!」と食堂の包丁でヒロインを襲うんじゃないかと見ていてヒヤヒヤします。そういうところもヒッチコック一流のサスペンスな仕掛けなのかもしれません。その甲斐あってか今回もヒロインのティッピ・ヘドレン(ヒッチコックがたまたま見たTVCMに出ていた彼女を抜擢した)はそのファッションとともに実に魅力的です。

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