華麗なるギャツビー

Cinema

(2013年/アメリカ)

村上春樹さんの敬愛する小説としても有名な「グレート・ギャツビー」の映画化です。

もちろんF・スコット・フィッツジェラルドの原作も読み、何度も映画化されている作品のうち、あのロバート・レッドフォード(『明日に向って撃て!』『スティング』)主演の1974年版も観たはずなのですが、正直なところ作品の良さが理解できずにいました。

今回、2013年版のギャツビーはレオナルド・ディカプリオ!どのようなグレートさを見せてくれるのか期待大です。

結論から言いますと、初めてこの作品のポイントが理解できたのではないか、と。

今まで入り込めなかった大きな要因は「ギャツビーが戦っているのは誰なのか、その相手がはっきり見えなかった」ということです。なので感情移入しようにも独り相撲にしか見えなかったわけです。

昔の恋人デイジーの夫トム・ブキャナンだって、別にギャツビーから略奪したわけでもなく、普通の(とは言いにくい部分もありますが)夫ですし、デイジーにしたって主人公の人生を狂わせるほどの「絶世の美女」とも思えません。

彼が戦っていた相手は何だったのか。それは「過ぎ去って戻らない時間」だったんですね。「そんなことができるわけない」と言われようと、「過去は取り戻せる」ことを真っ向から信じて疑わずに行動して勝ち取ろうとした男の話です。デイジーもトムもその脇役に過ぎません。そして(最初から分かっていたにせよ)敗れ去る姿が深い余韻を残します。

2013年版が分かりやすく作られていたからか、当方が歳をとったからか、あるいは両方なのかもしれませんが、とてもシンプルに作品のテーマが伝わってきました。

映画についてですが、何はともあれキャスティングが素晴らしいですね。ディカプリオ氏は、もうこれ以上ないくらいのクールにしてスウィートな微笑から、作品の転換点となる「殺人鬼の形相」まで、相変わらずきちんと体重の乗った真っ向勝負の(しばしば観ている方が疲れるくらいの)演技を見せてくれます。

語り手のニック・キャラウェイ役のトビー・マグワイア氏は映画に心地良い軽さを与えていますし、トム役は「皆が俺をヒールだと思いたがるがギリギリ普通だろうが」という面構え。ルパンにおける銭形警部という感じでしょうか。

ヒロインであるデイジー役のキャリー・マリガン嬢。『ドライヴ』(2011年)でもライアン・ゴズリングを相手に「線は細いけれど、それがまた男心をくすぐる」というヒロインを演じていた、あの感じです。WikiPediaによるとデイジー役にはスカーレット・ヨハンソン嬢の名前も挙がっていたそうですが、これでは強すぎです。なんせ『アベンジャーズ』ですから。

時折CG臭が鼻につく、ということを除いては文句のつけようのない映画なのではないでしょうか。前半のクライマックスであるギャツビー邸でのまさに華麗なるパーティシーンの素晴らしいこと!舞台は1920年代のアメリカでありながら流れるは最先端のダンスチューン。「時代考証なんか知ったことか」痛快です。映画なんだもの(みつを風)。

コメント

  1. OJ より:

    グレートギャッツビーは、私も村上春樹氏が絶賛しているという理由で読んだことがあります。そしてどこがいいのか分からなかったという印象しか残っていませんでした。
    しかしながら「過ぎ去って戻らない時期」と戦う男の話だったとは!当時ギターを手に入れ「これで俺もロックヒーローだ」と粋がる高校生だった私に、そのような機微が分かろうはずもありませんでした。・・・歳を経た今なら分かるという自信もありませんが(笑)
    それにしても魅力的な配役ですね。原作が好きで、前作も好きで、「でも俺ならこうするのに」という監督の想いが上手くハマったんでしょうねw

  2. C&P より:

    奇しくも「村上春樹さんきっかけ」の「これのどこがええの?」という同じ道筋をOJさんも辿られたということでちょっとホッといたしました。分かりにくかったですよねぇ?
    しかしながらギターを手にロックヒーローを夢見るOJ少年というのも眩しいですね。OJさんの曲の印象からブリティッシュ寄りの渋い感じ、というイメージなのです。勝手な想像ですが。