地下の鳩

Book

西 加奈子(2011年/文春文庫)

馴染みの(というほどではないですが)大阪は夜のミナミが舞台なので、あの猥雑な雰囲気が自然に浮かんで非常に作品の世界に入って行きやすかったです。

普通に歩いてたらバニーガールの格好をした女の人が声をかけてきたりして、もう訳が分からないんですね。

表題作の「地下の鳩」と「タイムカプセル」という作品が収められているのですが、「地下の鳩」が「吉田」という男と「みさを」という女(どちらも目が普通ではない)が主人公で、その中でバイプレイヤーとして登場した巨漢のオカマ「ミミィ」(ある事件で止めに入った「吉田」の目を殴ってしまう)を主人公としたのが「タイムカプセル」という作品という、ありそうであまりない構成となっています。

いずれも「自分」を上手く掴めないまま、大阪の夜の街に沈み込んでいる人たちなのですが、物語の終わりにはそれぞれ「自分」をおぼろげに掴まえようとする光が見えます。

特にオカマの「ミミィ」が小学校の頃、いじめられるシーンに既視感があるなと思ったら、先日読んだ(西さんお薦めの)ジョン・アーヴィング「ホテル・ニューハンプシャー」のお兄さんでした。

ラストに「ミミィ」はアイスピックを忍ばせて、その悪しき記憶の(捨ててきた)故郷の島に戻ってくるのですが、ひょっとしてそのアイスピックで以て・・・と思いきや・・・その余韻に閉じた本を見つめながらしばし呆然としてしまいました。正直な「嘘」を肯定する、という救い。

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