西加奈子(2009年/幻冬舎)
あとがきによると執筆当時「中二状態」で、その頃に編集者と訪れた島を舞台にいわば「治療」のために書かれた作品のようです。
確かに主人公の女性は、もうこれでもか、というくらいに他者の視線、他人からどう見えているかを気にします。『舞台』の主人公を彷彿としますね。
それに加えて主人公には綺麗で繊細なお姉さんがいるのですが、ある事情で引きこもっています。そして主人公は彼女に対する強い嫌悪感を持っている、と。これは『サラバ!』でのエキセントリックな姉に対する主人公の感情にも通じます。
西さんの作品の素晴らしさはそういうねちっこく絡み合った「負の感情」がラストにはスコンとひっくり返される気持ち良さなのですが、本作では中盤でのゆるいトリオ漫才みたいなノリがまたホッとさせてくれます。
この時点で主人公は「うっちゃりを待つ」ような状態になっていたんじゃないか、と。
それから終盤で主人公は、同じホテルに泊まるマティアスというマザコン青年(トリオのひとりです)の死んだ母親の姿が見えているようなのですが、西さん作品には時々こういう風に超常現象がさらっと書かれていたりします。
あまりにさらっと書かれているので「あれ?なんか登場人物がひとり増えてない?」ということになるのですが、エッセイ『ミッキーたくまし』でも西さん自身、幽霊を見たことがあるということなので、「まぁ見えるものはしょうがない」という感じなのでしょうか。
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