どつぼ超然

Book

町田 康(2010年/毎日新聞社)

西加奈子さんが好きな作家さんということで。読むのは第123回芥川賞受賞作「きれぎれ」に続いて2作目です。

相変わらず泥玉を手づかみで投げつけてくるような文章です。「田宮」という街が舞台なのですが、「お紺の松」のところで「あれ?これはあの街のことでは?」と思い当たる。ご丁寧に有名な像の写真も掲載されているので間違いありません。

それからはGoogleMapのストリートビューで主人公の足取りを辿りながらの読書だったのですが、圧巻は「カガエルステーション」。元ネタとなった施設の実名称も不思議で「一体何のための施設なんだろう?」という疑問がそのまま作品に投影されているようです。

それもさることながら建物の外観の描写が、ストリートビューで見ている現物とのシンクロぶりが感動でした。「なるほど、作家は見たものをこうやって文章にするのか」と。風景をスケッチしているのを後ろから眺めているような感覚ですね。

第三章のふれあいイベントで素人バンドがカバーしていた、ある昭和のヒット曲に対する歌詞分析も面白かったです。どう考えても真正面から馬鹿にしてますよね、これ。

第四章で、主人公が昼飯をどこで食べるか繁華街を徘徊するのですが、最初に目に留まったカレーにこだわりのある洋食屋(主人公は二日酔いのためパスしちゃうんですが)、実際にこの地を旅行で訪れたときにカツカレーを食べた店で、今でもときどき思い出すくらいに美味しいカレーでした。

町田さんの作品は他の作家ではとても得られない読感があって変にクセになりますね。読み手を選ぶ気はしますが。

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