西加奈子(2016年/ポプラ社)
先だって色々と本作品にまつわる西さんのインタビューや番組を見ていたのである程度筋書きは知っていたのですが、やはり骨太な内容でした。
「サラバ!」でも「自分より生活レベルの低い人たちへの憐憫に自己嫌悪する」主人公がいましたが、本作ではそれに加えて「死んでいった人たちに対する罪悪感」を抱えて苦しむ主人公アイ。彼女がリストカットするようにその死者の数をノートに書き留めるのは実際起こった世界中のテロや災害、大事故です。思わず小説から目を背けたくなります。
そして「3.11」。やっと(?)自分にも降りかかった大災害に対して、その場に残るという自分の選択にさえ彼女は嫌悪を覚えてしまうんですね。「それで被害者の苦しみが分かったつもりか」と。ここまでくると本当にシンドイ。
アイの結婚、不妊治療、念願の妊娠、流産。呪いのように繰り返される「この世界にアイは存在しません。」という言葉。
無二の親友でGLBTのユウの妊娠と中絶の意志を知っていよいよアイは追い詰められていきます。
終盤の怒涛のように押し寄せるリフレイン「この世界にアイは、」。作品冒頭の言葉「この世界にアイは存在しません。」に対する回答となるラストのアイのセリフ・・・。
そうそう、物語同様に装丁の段ボール絵(西さん作)も力強く素晴らしいです。
【追記】
「タイプライターズ~物書きの世界~ 170712」後半で本作について語られています。
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