映画ふたたび

Cinema

学生時代に深夜映画に凝った時期があって、山城新伍氏のナビゲーションで「ナイン・ハーフ」やら「フランチェスコ」(ミッキー・ローク月間だったのか?)やら訳の分からないフランス映画やらを見たり、TSUTAYAでレンタルビデオ(もちろんVHS)を借りてきて「ローマの休日」「ティファニーで朝食を」「スティング」「自転車泥棒」「赤い河」・・・・・・要するに名画と言われるやつを片っ端から見てました。しかしながらその後は映画を見る機会がありませんでした。

ところが最近、ある人から「『13人の刺客』は面白いから見てみろ。なんならわしがDVDに録ってもってきてやる」という話になりました。「そんなに面白いなら自分で借りて見てみます」と。

早速TSUTAYAで『トゥームレイダー』、『トゥームレイダー2』、『インディージョーンズ』。あとは予定通り、『13人の刺客』(平成版)と(昭和版)、『夢』、小津安二郎の『東京物語』(いろんなところでよく引き合いに出される映画なので一度見ておきたかった)、ずっと気になっていた三谷幸喜氏の映画。何でも良かったのですが、『13人の刺客』(平成版)で共演している2人が出ているということで『笑の大学』。

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一番最初に『夢』。この映画は「こんな夢を見た」というテロップから始まる数編のオムニバスなのですが、最初の「狐の嫁入り」「雛祭り」の幻想的で艶やかな映像から、途中は延々と暗澹たる内容が続く。戦争、雪女、原発事故、放射能汚染(何十年も前に、3.11を予見していたのです)・・・。

そしてラスト、目に染みいるような日本の原風景が映し出されて、笠智衆が延々と現代日本の愚かさについて語ります。実はリアルタイムに映画館でもこの映画を見ていて、その時もその構成の妙とラストのこの国の美しい映像が印象的でした。

今回再び見ても同じ印象で、プラス3.11という現実もあってさらに作品の重みが増したように思ったのですが、最近のドラマの神経症的ともいえるテンポの速さに慣れてしまった人たちにはどうしてもこの間が「待てない」でしょうね。

たとえば『夢』の「雪女」ではほとんどのシーンが猛吹雪の雪山で4人の男が遭難寸前でゼーゼーと息苦しくなるような呼吸をしながらノロノロと進むだけです。こちらが息苦しくなってくるくらいそれが延々と続きます。それが黒澤監督の映画の「間」。極限状態のシーンが続く。極限状態ではあるけれどそれ以上は何も起こらない。

そういうのをずっと見ているとこちらも「ひょっとしてこれ以上何も起こらないのではないか」と感覚が麻痺してくるのです。それはちょうど画面の中の4人の男たちの心情であって彼らもこう思っているのです。

「どれだけ歩いたってこれ以上何も起こらないのではないか」と。

そうして画面の中と観客の心が重なった頃に「それ以上のこと」が起きる、と。

という感じで、映画を楽しむには映画特有の「間」のようなものに身体を預ける気持ちの余裕がまず必要なんだと思います。「とりあえず2拍4拍でスネアが鳴ってないと」という人がクラシックを楽しめないのと同じです。「かったるい」で終わってしまう。

簡単に各作品の感想を(アクションアドベンチャー系除く)。

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『13人の刺客』(平成版)。かなりグロい。いきなり切腹シーンですから。憎まれ役のSMAP稲垣君がまず凄いです。とてもアイドルとは思えない。いますぐ画面に手を突っ込んでこの手で絞め殺してやりたいくらいに憎まれ役を演じ切ってます。主役の役所さんは引っ張りだこの役者さんだけあって上手いですね。

メインの50分にも及ぶ殺陣シーンでは松方さんが格好良かったです。まだあんな剣さばきが出来るんですね。バラエティでニコニコしてるイメージがありましたが凄味が違う。

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昭和版は平成版との比較で見ました。こういう映画の見方も面白かったです。「ここはセリフもそのままだな」とか。主役の片岡千恵蔵さんは声が良かったです。役所さんの方が格段にスタイリッシュですが。

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『東京物語』の「間」も凄い。笠智衆さんのセリフたるや尋常ならざるものがあります。何を言われても「あ、あぁ・・・・・・」。・・・・・・それだけかぃ!といちいち突っ込むのがめんどくさくなるくらいなのです。映画の「間」に身体を預けねばとても見てられない。そして原節子嬢の神々しいばかりの美しさ。

憎まれ役の杉村春子さんの演技が自然で素直に憎めました。他の役者さんがいかにも「セリフを覚えてしゃべってます」という感じなのに比べて「多分この人、普段もこういう人なんだろうな」と思わせるのです。調べてみると森光子さんも尊敬したりする凄い人みたいです。「13人の刺客」もそうですが、憎まれ役が良いと映画が成立しやすいんでしょうね。

脚本でいうと、最後に京子が「こんなの家族じゃない」と感情を爆発させて、それまで鬱積していた我々も「そうだ!そうだ!」と立ち上がりかけるのですが、なんと紀子さんはそれを諌めるんですね。「家族というのがそうあって欲しいという気持ちは分かる。でも家族というのはどうしてもバラバラになっていくものなのだ」と。さっきの「雪女」じゃないですが、これまでずっと我々も紀子たちとともに鬱積し続けていただけに当の紀子にそう言われると「そうか、そういうものなのか」と思わされるんですね。脚本家というのはさすがに観客の一枚も二枚も上手をいっているわけです。

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そういう意味では『笑の大学』の三谷幸喜さんもさすが!ラスト近く、稲垣君が「脚本家としての権力との戦い」を告白するくだり、音楽も盛り上げて、こちらも「そうだ!そうだ!なぜ民衆の楽しみを国家権力が奪うのだ!」とこちらも盛り上がって、このまま役所さんと稲垣君が抱き合って・・・・・・と思いきや見事に観客の期待を裏切ってくれます。そして最後の役所さんの無理難題からラストシーンまでの運びの見事さ。取調室前で見張りをしていたボケ役の老警官の敬礼の美しさ。泣けました。

だいたいが泣かせる映画が嫌いなのです。予告を見て「これはお涙頂戴だな」という「感動の超大作」は絶対観ないことにしてます。それほど避けているのにやっぱり泣かされるのです。そういえば「東京物語」もちょっと泣けました。まぁ歳とったせいもあるんでしょうけど、映画には敵いませんな。

(2014/03/02)

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