(2011年/ハンガリー)
これは草原をバケツを持って歩く姿が印象的で、見たいと思っていた作品です。
哲学者ニーチェの馬についてのエピソードが語られた後、荷馬車と老人が強風の中を行く映像がずっと続く。馬面に近づいたかと思うと荷馬車の全景を捉え、老人を捉えて、ずっと引いて雑木林の向こうから写し、また荷馬車に近づいて馬面の前から撮る。そしてやっと家に辿り着いて娘らしき女性が無言で馬や荷車をしまうまでがワンカットなんですね。13分くらい。
そのあと全く言葉を交わさないまま、黙々と娘が親父の服を脱がせてやって、初めてのセリフが「食事よ」。映画が始まって20分くらいで初めてのセリフ。バックにはずっと重々しいチェロの調べ。
なんせこんなビビッドなモノクロの画面を初めて観ました。モノクロってどこかしらボケているような感覚があるんですが、端から端までソリッドなんですね。計算し尽くされた俳優の動きとカメラの動きと静止したときの画面構成の完璧さと相俟って(月並みな表現ですが)まさに「芸術的」です。
なにも説明らしきものはなく、2度「訪問者」が来るだけで、あとはストイックに無口な親子と「・・・」という空気が張りつめた室内とじゃがいも1個だけの食事と絶えることなき強風だけ。
ただ同じ事の繰り返しのように見えて、日に日に何かが損なわれていきます。井戸の水は枯れ、家を出ようにも何故か戻らざるをえず、ランプの灯は消え・・・もはや茹でることもできなくなった生のじゃがいもを無言で見つめ続ける親子のシメントリーで2時間30分の映画は終わります。
「2001年宇宙の旅」とかもそうですが、「ザ・映画」的な映画と申しましょうか、2時間ドラマを見るようなノリでは決して観られないタイプの映画でした。
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