ドリームハウス

Cinema

(2011年/アメリカ)

ダニエル・クレイグ主演のサイコスリラー。どうしても007に見えてしまって、窮地に立たされるシーンでは「大丈夫、超人的身体能力&判断力&特殊兵器ですぐさま反撃するから」という条件反射を変換するのが大変でした。「いやいやそうじゃない、今の彼は普通のおっさんなのだ」と。

そんな常人007氏に目がいきますが共演も豪華です。妻は『ハムナプトラ/失われた砂漠の都』で魅力的なツンデレヒロインを演じたレイチェル・ワイズ嬢。『ハムナ~』の時は「椎名林檎嬢のようなひとだな」と思ったのですが、本作では真正面から魅力的な良妻を演じておられます。こんなひとだっけ?美女はこれだから怖い。

隣家の奥さんは『マルホランド・ドライブ』『雨の日は会えない、晴れた日は君を想う』のナオミ・ワッツ嬢!

ストーリーは、敏腕編集者が一念発起して専業小説家として独立。美人妻と天使のような二人の娘と郊外に買った「ドリームハウス」・・・まさに絵に描いたような幸せな家族を予想だにしない事態が・・・というもの。

映画の観方としては邪道なのですが、どんでん返しが起こるのが映画のど真ん中。「え?ここから終わりまでどう引っ張るの?」と。しかしここは豪華キャストを揃えた製作陣、脚本も凄腕に依頼したのでしょう、きっちりとした仕事ぶりです。なるほど。

観終わって素直な感想は「非常に真面目に作られた映画だな」と。俳優陣も脚本も演出も手堅い。映画としての及第点は軽く超えているのでしょう。でも「良い映画だったか」と言われるとちょっと躊躇してしまうのですね。

話が逸れるようですが、先日たまたまタヒチと宮崎のお土産でクッキーを食べる機会がありました。タヒチ製は一見して個々の大きさがバラバラ、個別包装のビニールの継ぎ目にクッキーの生地を挟みこんだままプレスされているのもあったりして、恐らく居眠りしながら作られたと思われます。片や宮崎製は寸分の狂いもないクッキーが理路整然と並ぶ。

食べてみるとタヒチは大きな欠片がボロボロこぼれる大味な風味。宮崎はキメの細かい生地を堅く焼き上げ、甘みも程よく抑えた繊細な味。どちらがモノづくりとして優れているかといえば間違いなく後者です。

でもどちらをもう一度食べたいかと言われるとタヒチなんですね。極端に言えばタヒチのクッキーはお菓子の味がして、宮崎のそれは工業製品の味がした、と。

真面目なモノづくり、優れた材料とデザインと技術で作られたモノだけが(その品質と比例して)人の心を打つわけではない、ということなのでしょう。贅沢な話ですが。

コメント

  1. OJ より:

    なるほど、お菓子と工業製品の味ですか、決められた事を決められた通りにすることで一定のクオリティを保つ、その結果当たり障りのない味になる。そうなんですよね、これは難しいテーマだと思います。
    私が思い当たったのは日本酒の世界の話ですが、こだわりの酒を職人が少量作るのがいいのか、それをマニュアル化して量産すべきか、悩ましいですがどちらも正解なんですよね。
    ただ映画はもう少しマニュアルから自由であって欲しい気がします。先般不幸な惨事に見舞われたアニメ会社の作品も、手づくりの繊細な表現が多くの人の心を動かしてきたのではないかと思います。
    話が逸れましたが、CPさんの講評は奥が深くて酒が進みますねw

  2. C&P より:

    お酒というと最近の「獺祭」自主回収、その理由が「アルコール度数にばらつきがあったから」。全て数値に置き換えて徹底的に管理している旭酒造さんらしいですよね。自然のものを相手にしているんだからばらつきだってありそうなものですが、全て均一でないと価値がない、と。「職人のこだわり」を「マニュアル化して量産」という二兎追っているわけですからどこかで無理が出るんでしょうね。
    仰る通り、京アニを支援する人たちのニュースを見ていると、人の心をしっかりと掴んで離さない「モノづくり」というのはまだちゃんとあるんだなと思わされますね。
    『ドリームハウス』は作り手の真面目さが作品にまで影響していて、なんだか正座して観ないと申し訳ないような・・・タランティーノ監督みたいに「真面目にふざけたものを作る」くらいが良いのかもしれません。正解は何処に・・・今宵も酒が進みそうです。