西加奈子(2010年/角川文庫)
表題作を含む8編の短編小説集。
「太陽の上」
まず主人公が「あなた」というのが新鮮です。著者から「具体的にイメージして下さい」と絶えず言われながら物語が進んでいく感じです。「太陽」という中華料理屋と同じ建物の3階の部屋に3年間引きこもり中の「あなた」の物語。途中「すわ、修羅場到来か?!」と思わされる仕掛けがあってドキドキしました。ラストがじんわりと感動させられます。
「空を待つ」
これは西さんと椎名林檎さんの対談の中で椎名さんが「号泣した」という作品。小説家の私と拾った「空の携帯電話」でのあっちゃんとのメールのやり取りが主軸。ラストに届くあっちゃんのメール文が空の色の綺麗さと相俟って自然に涙を誘います。
「甘い果実」
実在の、そして西さんと仲良しである同世代の小説家山崎ナオコーラさんが実名で登場するユニークな作品。主人公の「私」は同世代で売れっ子の山崎ナオコーラに嫉妬する小説家志望の女性。山崎ナオコーラさんがこの作品を読んでどんな感想を持たれたのか気になるところです。
「炎上する君」
恩師の葬儀で再開した高校時代の親友と女性二人のバンド「大東亜戦争」を結成。いわゆる女言葉を使わず決して男に迎合しない浮世離れしたような二人だが、ある日「足が炎上している男」と出会って・・・という浮世離れしたストーリー。確かに恋ってそういうものかもしれないな、と。
「トロフィーワイフ」
かつてはその美貌で夫のお飾りでいることが存在価値だったひさ江さんとその孫である枝里子の二人の会話を軸に物語は進みますが、途中「あなたのような人をね、欧米ではトロフィーワイフというのよ。」という文章がゴチックで挿入され、度々挿入される毎に文章が延びていくのがミステリアスです。そしてラストの一行も衝撃的にミステリアスだったのですが、深読みでしょうか?
「私のお尻」
世に「手タレ」という手だけのタレントがいますが、その「お尻」版が主人公の女性。自分の身体の一部とはいえ、あまりにも人が褒めそやすので嫉妬にかられる主人公。ある日不思議な男に声をかけられ・・・後半からは村上春樹氏の小説での「井戸の中」的な世界となり、そこに意外な大作家が出てきたりしてニヤリとさせられます。
「舟の街」
これは「私のお尻」に引き続いて「井戸の中」的な世界。主人公の「あなた」は序盤でこそリアルな世界にいますが、すぐに向こうの世界へ誘われます。自分のアイデンティティーが「舟」に例えられているのでしょうか。「舟」が壊れて海に飲み込まれるところで、まるごと「舟」醸成ワールド的な街で過ごすことで再び確固たる「あなた」という「舟」で海に漕ぎ出す、と。
「ある風船の落下」
身体が浮くというストレス起因の奇病にかかった主人公。とうとう最終ステージのSHOOTで天空に飛ばされてしまう。そこには世界中から同じ病でやってきた者たちがお互いのストレスを避けるため等間隔で浮きながら安住していた。主人公はそこに安息を感じていたが・・・という浮遊感溢れる物語。ラストが美しいです。
文庫本の解説は西さんとも親交の深い又吉直樹さん。解説の最後の文章は、本の帯にもなった「絶望するな。僕達には西加奈子がいる。」仰るとおり。
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