ザ・シークレットマン

Cinema

(2017年/アメリカ)

主演のリーアム・ニーソン氏と言えば「96時間」シリーズや「フライト・ゲーム」の印象が強烈で「無敵親父」にしか見えないのですが、出演作品を眺めるとあらためてその錚々たるラインナップぶりに驚かされます。

『レ・ミゼラブル』(1998年)は観たはずなんですが覚えてないなぁ。最近観たマーティン・スコセッシ&ディカプリオの『ギャング・オブ・ニューヨーク』では冒頭の壮絶な対決シーンで殺される牧師役でした。うーん、そうだっけかなぁ?

本作はある意味「無敵」なFBIの副長官代理役ではありますが、ニーソン氏の演技は徹頭徹尾「忍」の一文字。「無敵」とはいえ、相手はホワイトハウス、いつもみたいに暴れまくるわけにもいきません。初めて観る「静」なるニーソン氏。

ハリケーンのような思惑の渦や政治的圧力に耐えながら、原題の「The Man Who Brought Down the White House」のとおり、その男はホワイトハウスに立ち向かいます。観ていて息詰まる感じですが、それでも観せるんですね。ニーソン氏の佇まいと派手さはないものの練りに練られたカメラワークやカット割りで。こういうのを観るとしみじみと「映画だなぁ」と思わされますね。

終始モノトーンのような暗く重い画面なのですが、だからこそ行方不明だった娘と再会する森のシーンが目に沁みます。闇を這うような彼の人生終盤に差した数少ない光のように。そういえば彼が笑顔を見せたのはあのシーンだけだったかもしれません。

ニーソン氏と二人の腹心の部下の酒場のシーンも良かったですね。言葉にしてしまうと壊れてしまいそうな薄氷のバランスを土俵際ギリギリで保つのですが、これをほとんどセリフなしの「間」だけで表現するんですね。俳優って凄いです。

殊更にお薦めするポイントがあるでもないのですが、シンプルに良質な映画でした。

コメント

  1. OJ より:

    ウォーター・ゲート事件の話ですね。誰だったか忘れたのですが、アメリカの歴代大統領と懇意にしていた人(多分アラン・グリーンスパン元FRB議長)が、ニクソンがずば抜けて優秀だったと書いているのを読み、盗聴して捕まった策士という印象しかなかったので意外に感じた事があります。
    本作はニーソン氏の抑えた演技が冴える良作という感じですね。しかしながら「行方不明の娘と森で再開」っていきなりファンタジーみたいな展開ですが、どんな状況でそうなったのでしょうか?

  2. C&P より:

    アラン・グリーンスパン元FRB議長の本とは、OJさんのチョイスも凄いですね。当方、国内外問わず歴史がまるっきりダメでして、そういうのが背景にあると理解できないことが多いです。ウォーター・ゲート事件も「諫早湾干拓論争」的な、何処かの水門の開閉に絡んでいるのかと思ってましたから。
    「ある日、森の中、娘に出会った」の件ですが、とても普通とは言い難い家庭環境から逃れるように行方不明になっていた娘が、自給自足サークルで暮らしていることがわかって、そこに会いに行くんですね。初めて見せるただの「父親」「おじいちゃん」(孫までいた)の破顔ぶりが染みるシーンです。