あの頃ペニー・レインと

Cinema

(2000年/アメリカ)

ベットに立てかけられたレスポールと並んで座る下着姿の美少女、というジャケットとビートルズの曲名が入ったタイトルがずっと気になっていた作品。

「あなたの幸せのため」と言いながら自分の夢をガンガン押し付ける典型的なエゴイスティックママから逃れるように、音楽雑誌ライターを志す15歳の主人公。「ブレイク寸前」(原題:Almost Famous)なバンド、「スティルウォーター」のツアーに同行し、グルーピーの少女ペニー・レインと出会うも、彼女はバンドのギターリストと付き合っていて・・・という展開。全編でFamousなロックナンバーが流れ、スティルウォーターのライブシーンもあったりします。

キャストはエゴイスティックママにフランシス・マクドーマンド女史。『ファーゴ』(1996年)の妊婦警官ですね。『ファーゴ』もそうですが、本作の演技でも数々の映画賞を受賞してます。ペニー・レインはケイト・ハドソン嬢。『スケルトン・キー』(2005年)、最近では『バーニング・オーシャン』(2016年)冒頭の蛇足なベッドシーンのお相手。そうだったんだ。さっさとエゴ母に愛想を尽かして出て行ってしまう主人公のお姉さんは『イエスマン “YES”は人生のパスワード』(2008年)、『(500)日のサマー』(2009年)のズーイー・デシャネル嬢。なかなか豪華な女性陣ですね。

さて、Wikipediaによると「青春映画として、また音楽映画として非常に評価が高い」ということなのですが、いまいちピンときませんでした。(1)音楽・バンド関係、(2)ペニー・レインを巡る恋愛関係、(3)エゴ母との親子関係、という3つのポイントがありながら、どれにもきちんとフォーカスされないまま終わった感があります。

(1)音楽・バンド関係:最近たまたまAC/DCのライブ映像でアンガス・ヤングを「目撃」してしまったせいもありますが、スティルウォーターのライブシーンを見ても何も伝わってこないんですね。「あー、うまいことライブ風になってるな」くらいで。そして前述のとおり著名ロックナンバーが散りばめられているのでそれらしく見えますが、仮にBGMがない状況で観たら全編実に無味乾燥な映像だろうな、と。

(2)ペニー・レインを巡る恋愛関係:ペニー・レインが登場するあたりで、「私たちはバンドメンバーと××するだけの普通のグルーピーたちとは違うのよ」的な発言があったと思うのですが、結局何が違ったのかよく分かりませんでした。主人公曰く「彼女たちは本当にバンドを愛している『バンドエイド』なんだ!」はいはい、山田君座布団全部取っちゃって。主人公の少年とギタリスト氏との三角関係、といっても誰もそこまで執着していないというか、それぞれどうでも良さげです。

(3)エゴ母との親子関係:ツアーの同行先のホテルにまで「ドラッグに手を出しちゃだめよ!」と電話で怒鳴りまくるエゴ母。娘はさっさと出て行ってスチュワーデスに。もう息子を弁護士にすることしか念頭にありません。学校の先生なんですが、授業も途中で放り出しちゃいます。俯瞰してみるとヒールらしきヒール不在の本作で、唯一ヒール的存在が彼女なのですが、ある晩、電話を切った後「寂しいのよ」と一人泣き崩れて、ラストでは戻ってきた二人の子供たちに「許す」と。

一見、一件落着風ですが、ちょっと待ってくれと。子供たちに自分の夢を押し付けるのも、一人で寂しいのも、あげく「許す」というのも全てエゴ母の勝手です。せめて岸見一郎・古賀史健著『嫌われる勇気』を熟読して、ラストでは「許して」と言うのが筋でしょう、まったく。

というわけで「第58回ゴールデングローブ賞作品賞(ミュージカル・コメディ部門)と第73回アカデミー賞脚本賞を受賞」(Wikipedia)という本作ですが、結局、キャメロン・クロウ監督の「実際に15歳で『ローリング・ストーン』誌の記者になり、レッド・ツェッペリン、ニール・ヤングなど、数多くの伝説的なミュージシャンへのインタビューに成功した」(同)という過去の栄光自慢に、(1)~(3)をそれらしくくっつけて出来た映画だと思ったんですけどね、まぁ当方の思い違いなのでしょう。許して。

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