(2015年/アメリカ)
何と言っても「モダン・ジャズの帝王」、時々アルバムを聴いたり、「死刑台のエレベーター」の映画音楽(ラッシュ映像を見ながらの即興演奏らしい)に触れたりというのはありましたが、いまいち凄さが分からなくて、そういう意味でも何か得るものがあるはずという期待を込めて鑑賞。
のっけから不遜な態度でのインタビューシーン。初監督にして主演のドン・チードル氏によるマイルス・・・どうしても北島三郎のモノマネをしている木梨憲武氏を一昼夜甘辛く煮詰めて、仕上げに「水曜どうでしょう」モードの大泉洋氏を大さじ一杯振りかけた風にしか見えない。いや、これが帝王マイルスなんだ・・・煙草の煙の向こうで「オレの音楽をジャズと言うな」有名なセリフですが、嗚呼駄目だ、ちっとも頭に入ってこない。
変にしゃがれたウィスパーボイスや演奏シーンの完璧な当て振りなどドン・チードル氏の「なりきり振り」が見物らしいのですが、ご本人のそっくりショーを見に来ているわけではないのです。
肝心の音楽活動をぱったりとやめた「空白の5年間」についてですが、映画では1日の出来事しか出てきません。
引きこもりのような生活をしているマイルスを音楽雑誌記者(ユアン・マクレガー!「トレインスポッティング」「ジャックと天空の巨人」)が訪れたことから始まる演奏テープの強奪騒動、挙句の果ては銃撃戦混じりのカーチェイス!合間に挿入される元妻フランセスとの愛憎劇。
これを全力でマイルスになりきった「サブ憲武の甘辛煮~水どう風大泉を添えて」のチードル氏が演ずるわけです。得るべき音楽的見識はどこにも見当たらず、映画としてもかなり八方破れ。
ジャンルという枠をぶち壊し続けた帝王マイルスへの敬意の表れなのでしょう。きっと。
コメント
私もマイルス・デイビスの事はコワモテのジャズマンという印象しかありませんが、彼の凄さを知る一助になる事を期して観た映画が「憲武の甘辛煮」とは!マイルス好きが高じてそうなったというか、マイルス好きが映画を作るとそうなるという事でしょうか。
帝王たる者強烈なカリスマが有った事が想像されますが、本人を良く知らない人から見たらただのクセの強いオッさんであり、得るべき音楽的見識を求めて画面を注視するCPさんの落胆ぶりも含めマイルスの術中にあった作品のように感じました。
映画を作るにあたってドン・チードル氏を含めてマイルスファミリーとミーティングまでやったらしいのですが、一体何を話し合って何を合意したのか議事録を確認したいくらいです。
恐らく「うちのマイルスの空白の5年を2時間の映画にしたいですって?!そりゃ1日分くらいにしかならないわね!」「なるほど、心得ました。では1日分を映画にすることにいたしましょう」みたいな感じだったのでしょう。勝手に撮った方がよっぽどマシです。
『ボヘミアン・ラプソディ』以降、ミュージシャンにスポットを当てた作品が目白押しの昨今、出鼻をくじかれた感ありです。