パラサイト 半地下の家族

Cinema

(2019年/韓国)

2019年カンヌ国際映画祭パルム・ドール受賞、2020年アカデミー賞4部門受賞と話題をさらった作品とあって観るのがずっと楽しみでした。

と言いながらも、大体映画祭受賞作たるや、きっと評論家好みの硬派なドキュメンタリーか何かなのだろうと予想していたのですが、まさかのコメディ!それも大笑いではなくクスっと系(?)で誰でも観やすくなっています。

ストーリー展開も気持ちよく進むので半地下の4人家族にクスクスしているうちにどんどん引き込まれます。上手いですね。豪邸のキッチンのゴミ箱から喀血したティッシュを取り上げるお父さんとそれを見た社長夫人の顔が忘れられません。スローモーションの映像や音楽も相俟って絶妙でした。

途中で展開があって、今考えるとそこでコメディ路線は終わっているのですが、観ている側は何となく引きずられたままラストになだれ込みます。メリーゴーランドに乗っていたつもりが、急に宙返りジェットコースターになったようで呆気にとられるとはこのことでしょう。

観終えて、正直何でこの映画が色々な賞を取ったんだろうと。WikiPediaによると評論家は「緊張感と驚き、そして、富裕層と貧困層の階級に対する怒りが込められている」「タイムリーな社会的テーマを多層的かつ見事に描いているが、ポン・ジュノ監督の作家性が強く刻印されている」ふーん、そんなもんかなぁ。

眠る前と今朝5時前に目が覚めて、「半地下のお父さんはどうしているかな」とか「息子は金持ちになれるかな」とか布団の中で考えながら、ふと「そういえば、あの映画って悪人が誰もいないな」と気付く。なのになんであのラストになるのかというと問題は「富裕層と貧困層」しかないわけです。じゃあ解決策は、息子が言うように「金持ちになる」しかないのかなぁ・・・。

何が言いたいかというと、気づけばすっかり作品のテーマが当方の頭の中に入り込んでしまっている、ということです。コメディの体で映画の95%を半地下の家族に寄り添わせて、ラストに観客もろとも棍棒で頭を殴ったんですね。それを評論家は「監督の作家性」と呼ぶのでしょうけれど、なるほど見事です。これは芸術作品にしかできません。そりゃ拷問とか洗脳とかすれば、他人の頭に無理やり何かを植え付けることはできるのかもしれませんが、今回私がしていたのは132分のうち95%ヘラヘラ笑いながら映画を観ていただけです。

これまたWikiPediaによると、かのトランプ元大統領が韓国映画のアカデミー作品賞受賞を受けて「『風と共に去りぬ』や『サンセット大通り』など他にグレートな映画がある」と宣い、配給元が「わかります、字幕が読めないんですね」とツイートしたそう。まぁ肝心の富裕層の頭の中に斯様なテーマを植え付けるにはアカデミー賞級の作家性であっても足りないのでしょうね。

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