リリーのすべて

Cinema

(2015年/イギリス・アメリカ・ドイツ)

ジャケットに写る二人のうち、ひとりはどう見ても男性だよな、とずっと気になっていた作品。何となくコメディかと思っていたのですが、『世界で初めて女性に変身した男と、その妻の愛の物語』というあまりに説明的に過ぎる邦題の小説(原題「The Danish Girl」)を基にした伝記映画です。

男性に生まれながら、リリーという女性人格を抑えきれない難しい役どころを演ずるのはエディ・レッドメイン氏。『レ・ミゼラブル』にも出ておられたそうですが、覚えてないなぁ。今観たら分かると思いますが。

そんな難しい「夫」に振り回されながらも愛し続ける妻にはアリシア・ヴィキャンデル嬢。あの『エクス・マキナ』の彼女ですね。『アンナ・カレーニナ』や『トゥームレイダー ファースト・ミッション』など話題作に出演するだけあって、こちらも難しい役を実に魅力的に演じておられます。ちょっとした表情に目が離せません。

そもそもニコール・キッドマン嬢が原作に惚れて映画化を検討していたそう。妻がキッドマン嬢だったら、もっとシビアな感じになってそうです。ユマ・サーマン、レイチェル・ワイズという案もあったそうですが、これも違いますよね。やっぱりヴィキャンデル嬢に決まりです。

数々の映画賞にノミネートされ受賞した本作ですが、根っからの男性であるレッドメイン氏がリリーを演じたことに一部批判があり、ご本人も役を引き受けたことについて「間違いだったと感じている」とのこと。

そんな批判がまかり通るなら、悪役たるや実際に犯罪を犯したり願望を持つ人が演じないといけないことになって、「映画なんて撮ってる場合か!あいつを捕まえてくれ」となっちゃいますし、歌舞伎や宝塚なんて「うわー!嘘つきだらけだー!」と叫び回らないといけません。

毎日のようにジェンダーの話題を見聞きしますが、ジェンダー問題に限らずとも、本人にとっても何がどこまで「本当」で、どこから「演じている」のかなんて分からないでしょうし、演ずることが悪かと言えば、演ずることで守られるものもあるでしょうし。

一切演ずることをやめたリリーのすべてを誠心誠意演じて伝える映画俳優になんの非がありましょう。

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