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又吉直樹(2017年/新潮社)

お笑い芸人、ピース又吉氏の第153回芥川龍之介賞受賞作「火花」に続く第2作目です。市営図書館の「ちょっと前のベストセラー作品」というなんとも微妙なコーナーにあったので。ちなみに「火花」は未読です。

西加奈子さんや中村文則さんとの特番「タイプライターズ~物書きの世界~」では本作について、「『かいぶつ』の内臓を見せられたような気持ち」という西さんの感想もあったのでかなり構えて読みました。

小さな劇団の脚本担当である主人公「永田」の自意識過剰、そのブレ軸の太さたるや、ここまで描き切れるのは芸人であり劇脚本も書かれたことのある作者ならではなのでしょう。

その主人公を懸命に支えようとする沙希にしても、これを一言で「優しさ」と言っていいのか迷う「かいぶつ」ぶりです。

そんな沙希も話が進むにつれて永田の「かいぶつ」ぶりにはついていけなくなるのですが、そりゃそうだよな、と。すっかり感情移入して永田の周囲の人たち同様に「お前がそこまでこだわる演劇とは一体何なんだ!」と糾弾したくなるわけです。

「昭和枯れすすき」的芸術・芸能観なんてとっくに過去のものとはいえ、こういう世界ってまだどこかに残っているものなのでしょうか。

誰かを不幸にしてまで音楽をやるつもりなどさらさらない当方、延々と永田に説教されそうです。勘弁して下さい。

コメント

  1. OJ より:

    当方演劇には疎く縁遠いのですが、考えてみたら、イッセー尾形さんの一人芝居や落語も演劇ですよね。自分が日々世渡りの中で打つ小芝居も演劇?だとしたら中々のタヌキ役者の自負があります。
    ちなみに「神妙な困った顔」が得意ワザです(笑)

  2. C&P より:

    当方も演劇はほとんど観たことがないのですが、その昔、本作品に出てくるようなセミプロの劇を観たときは床板に薄い座布団で数時間・・・そのケツ(失礼!)の痛さたるや!しかし終盤には痛みも忘れて見入ってしまっているわけですが、今思い出せるのはあの痛みだけ・・・。また永田氏に怒られそうです。「ケツが割れるくらいが何だっ!」
    日常とは「是日々世渡り小芝居」、得意技「神妙な困った顔」とは、実にシニカルにしてコミカル!脱線するようですが、某SMBC窓口でCMとして流れていた堺雅人氏の貼りついたような笑顔を思い出しました。あれってあの人の普通の笑顔なんでしょうか。不思議です。