アメリカン・スナイパー

Cinema

(2014年/アメリカ)

監督はあのクリント・イーストウッド氏。言わずと知れた『ダーティハリー』キャラハン刑事ですね。近年は監督として次から次へと実話を元にした映画を発表し続けていて話題作も多いです。墜落寸前の旅客機を川に不時着させた『ハドソン川の奇跡』など。もう絶対良いのが分かっているので敢えて避けてきたイーストウッド監督作品ですが、この度鑑賞。

本作も実際に存在した「伝説の狙撃手」が主役です。WikiPediaによるとキャッチコピーは「米軍史上最多、160人を射殺した、ひとりの優しい父親」。もう身も蓋もありません。

内容は全くその通りなのですが、そこは流石のイーストウッド・キャラハン監督、描き方に独特なストイックさがあります。安易にぶれないんですね。

軽いユーモアをそこかしこに散りばめながら描かれる、特殊部隊での訓練、イラク戦の様相、アメリカで待つ妻や家族の元に戻ってきても心まで帰らないPTSD的な問題・・・妻とのやり取りが泥沼化するかと思った瞬間、次のイラク派遣のシーンに切り替わって、水を得た魚の如く意気揚々と活躍するスナイパー氏。

観客の感情移入の矛先は、妻の気持ちとともに置き去りにされるんですね。まさに犯人に向けられたキャラハン刑事の44マグナムのように、一片の私情も挟まれることのない冷徹なカット割りです。

そして訪れる衝撃のラスト。無音で流れるエンドロールを眺めながらしばらく動けませんでした。この「無音」というのがまた実に雄弁なんですね。普通ならセンチメンタルな、何かしら音楽を流すところです。無音・・・ここに至っても全くぶれません。

日本人の端くれですが、映画を観ながらずっとイーストウッド監督の「アメリカ愛」を感じました。エンドロールで流れる映像に至るまで。そして「アメリカを愛する」ということは、果たしてこの映画の主人公をヒーローとみることなのか、あるいはそうではないのか、正反対な選択肢をあの無表情さで突きつけてくるわけです。You’ve got to ask yourself one question.

「実話」だということに胡坐をかかない、「誠実」な映画作りの賜物ですね。それにひきかえ実話として「正確」なのかもしれないけれど「不誠実」な映画のなんと多いことか。

コメント

  1. OJ より:

    クリント・イーストウッド監督作品では、昔「許されざる者」を観て感動した覚えがありますが・・・アメリカンスナイパー、160人射殺した実在した狙撃手ですか!う~む想像できない世界ですね。
    スナイパーなので恐らく遠距離からスコープ越しにターゲットを撃つのでしょうが、人を殺している実感は湧くのでしょうか。
    その辺りの葛藤はイーストウッド流に、リアリズムとストイックに感情を抑えた映像でじっくり描かれているのでしょう。
    間違いなく名作なのでしょうが少し観るのに勇気が要りますねw

  2. C&P より:

    「許されざる者」未観ですが、もうタイトルからして重いですもんね。寅さんを観るようなノリで高倉健さんの映画が観れないのと同様な、観る側にちょっとした覚悟を強いる感じがあるんですよね。
    ご推察の通り、スコープ越しに約2km先にいる敵のスナイパーをターゲットにするシーンがあります。この部分はとても映画チックなので観ていて「ほっ」とします。リアルな夢の中で「あ、これは夢だ」と気付いて「ほっ」とするのと同じ感覚でしょうか。その辺のさじ加減も絶妙です。
    しかしながら「アメリカンファースト!」とかしましい昨今、本作の今日性は増すばかりのようです。