ブラック・バタフライ

Cinema

(2017年/アメリカ)

特に何という理由もなく鑑賞。

黒沢年雄氏と誰かを足して4で割ったようなアントニオ・バンデラスが演ずる老年で落ちぶれた作家が主人公です。

彼の住むのは『ポツンと一軒家』(ABCテレビ)で取り上げられそうな山奥の草原に建つ小屋。すでに妻は出て行ってしまい独り暮らし。金もないし、小屋を売り払おうと美人の不動産屋さんに依頼。厚かましいことに彼女とのランチも依頼。

あれこれあって、彼がピックアップして連れ帰った若い男が、ジュードロウ氏から上品さを引き算したようなジョナサン・リース=マイヤーズ。いかにも怪しげです。

どんな映画なのか何の予備知識もなく観たのですが、これは久し振りの「ドンデン返し」系?くすんだような画面がサスペンス感を盛り上げます。

映画が3分の2を過ぎたところで大きなドンデン返し!なるほど、そう来ましたか!でもあと3分の1あるしなぁ・・・という穿った観方をしながら、ついに訪れたラスト2分前の禁断のドンデン返し・・・これは!?

当然、映画評価サイトでの評価は推して知るべし。しかしながら、「それは想定外だった」というのがドンデン返しの手口なら、これも立派なドンデン返しです。

普通は「こんなところに裏口があったのかよ!」というところが、「どんな裏口があるのかと思ったら、正面玄関かよ!」と。堂々と正面玄関を出ていった後姿を見送る脱力感たるや。

映画評価サイトをみるに、これを観て怒り出す大多数と笑っちゃう少数派がいるわけですが、怒り出すのってどうなんでしょうか。つまり「映画とはこうあるべきだ」という「基準」があって、そこから逸脱すると腹が立つわけですね。

ニュースで政治家や芸能人が失言・暴言をお詫びするとともに取り消したり、最近ではタランティーノ監督がカンヌの記者会見で「才能ある女優を起用しながらセリフが少ないのは何故か」という質問を却下した件が炎上したりするのに違和感を覚えます。

もちろん失言・暴言を許せということではなくて、そういう発言をする人は次から個人的に選ばなければいいし、今後見なければいい。寄ってたかって取り囲んで「発言を取り消せ!」という光景は冷静にみるとかなり怖い。

タランティーノ監督の件も、記者の「才能ある女優には饒舌なセリフが与えられるべきだ」という意味不明な「基準」に対して、監督は「意味不明」と切って捨てただけです。

これがまたネット等で炎上するのも「記者会見たるもの、監督は映画への質問にはちゃんと答えるべき」という視聴者の「基準」から逸脱している、ということなのでしょう(「答えない」というのもひとつの答えなのですが)。

というわけで「基準」逸脱=是正せよ、というヒステリックな世相に敢えて巨石を投じた野心作、というと当サイトも炎上してしまいそうです・・・しないか。

コメント

  1. OJ より:

    かなり面白そうな映画ですね。どんでん返しの裏をかいたらどんでん返さなかったという事でしょうか。
    私もおかしな「基準」の押しつけにはうんざりです。最近もスポーツは善という考えに基づく「オリンピックで”レガシー”を」という風潮が鼻につき、「皆がスポーツが好きだと思ったら大間違いだ。俺は嫌いなんだ」「だって誰もカヌーなんか見ないし一生やらないでしょ。なんでそんなスポーツに税金使うんだよ」と息巻いていたら、「まぁ水でも飲んで落ち着きなよ」と周りから宥められました。
    ・・・まぁこれは世相に一石投じたと言うより酔っ払いの愚痴ですねw

  2. C&P より:

    ネタバレを避けるのが至難のワザなのですが、所謂「禁じ手」ということでしょうか。
    サッカーでボールを手に持ってゴールに駆け込んで「ゴールにボールが入ったらええんやろが」というような。
    ただ、スポーツには「ルール」がありますが、映画にはそれがないんですから「禁じ手だ!」という方がおかしいわけです。
    OJさんの仰る通り「皆がスポーツ好きなわけではない」というのは至極当たり前なことなのに、オリンピック開催を来年に控えたような国でそんなことを言おうものなら・・・嗚呼!OJさんが息巻かれるのも無理からぬこと、「まぁ酒でも飲んで」という展開かと思いきや、何故「水」なのかと思ったら、よもや、すでに酩酊最中でのご発言とは!
    文字数に限りあるコメント欄でのどんでん返し・・・OJさん、流石です。